お客様が神様でいられなくなるとき

 4月から多くの若者が社会人としてのスタートを切りましたが、新聞等ではすでに来春の採用活動についての話題が出ています。見直しが噂されている経団連の指針による採用ルールでは、6月から新卒学生の選考活動が解禁されますが、実際は多くの企業がそれ以前に採用選考を行い、内定を出しています。弊社でも5月中に最初の内定を出していますが、早く内定を出しても、大企業や公務員への採用が決まると内定辞退となる可能性も少なくありません。中小企業が人を採用するのは、本当に難しくなっていると感じます。
 加えて、働き方改革によって労働時間の短縮を迫られています。人の採用は難しい、今いる社員の労働時間は減らさなければならない、という状況での利益確保を経営者は求められています。

 この状況に対応するためには「生産性向上」をしなければならず、作業手順を見直して無駄な作業をやめたり、RPAというパソコン作業を自動化するソフトウェアを導入する試みが多くの企業でなされています。
 しかし、これらは「業務効率化」であり、「生産性向上」の一部でしかないそうです。「生産性向上」と「業務効率化」は混同されやすいのですが、業務効率化とは、これまで行ってきた業務のスピードをより早めてコストを下げることで、業務そのものの効率化を指します。一方で生産性向上は、事業や会社全体の「付加価値を高める」という観点から、業務効率化に加えて事業の再構築や新規創出など幅広い対策が考えられるのが特徴です。私は、影響を社内に留めるというリスクの少ない改革が業務効率化、お客様へ提供する商品やサービスも含めて見直すというリスクの高い改革が生産性向上、と理解しています。
 業務効率化はどの会社も以前から取り組んできたでしょう。しかし、料金の改定やサービス内容の見直しなど、クレームにも繋がりかねない改革までも含めた生産性向上に取り組むことは少ないと思います。しかし、経営環境の変化が、真の意味での生産性向上に取り組まねばならないことを迫っています。

 例えばヤマト運輸は、小口が多く配送効率が悪かったAmazonの業務をやめ、再配達サービスを縮小しました。同じ運送業界のアートコーポレーションは、専属契約の法人からの転勤引越しの依頼を優先し、相見積もりで値下げを求める法人や、最安値を探す個人の引越し依頼は断ることもあるそうです。人手不足や長時間労働の問題が最も深刻だった運送業界は、生産性向上のために「仕事を選ぶ」という考え方を取り入れつつあるようですが、この変化は遠からず他の業界にも波及すると思います。

 現在は大企業にのみ適用される、残業時間の罰則付き上限規制や割増賃金率の引き上げが、来年4月から中小企業にも適用されます。現在、残業で仕事を回している会社は、仕事内容の見直しが迫られています。恐らく「業務効率化」では追い付かず、顧客との関係見直しまで含めた「生産性向上」を検討せざるを得ないと思います。自社は何をして報酬を得ているのかを再度見直し、過剰サービスになっているものはお客様に説明して取りやめたり、別途報酬を頂くといった対応が必要になるでしょう。クレームを受けるかもしれませんが、やらざるを得ないことだと思います。
 同時に、顧客の立場としても、取引先が何でも対応してくれるのが当たり前、という考えを捨てなければならないと思います。「お客様は神様」と思って過剰な要求をすると、売り手側から離れていくかもしれません。良い商品やサービスを購入したければ、こちらも良い買い手であることが求められる、という時代になるのではないか、と思います。

 6月は暦の上では夏に入り、徐々に暑くなってきます。体が暑さに慣れていないことと、蒸し暑く汗を多くかくため、真夏と同様に6月も熱中症に気を付ける必要があるそうです。皆さんも水分補給をこまめに行い、体調管理に気を付けて下さい。

(長崎オフィス所長・社員税理士 内田佳伯)
(『月刊 アップ長崎・島原』2019年6月号 所長巻頭言より)


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