2019(平成31)年度税制改正の目玉の一つが、「個人版事業承継税制」(以下、「本税制」)です。概要については、「個人版事業承継税制のポイント」というチラシを同封しますので、まずはそちらをご覧ください。今回は、さらに本税制について解説を加え、より詳細をお伝えしたいと思います。

1.個人版事業承継税制の内容
 本税制は、認定相続人が相続や贈与により特定事業用資産を取得し、事業を継続して行う場合、担保の提供を条件として、特定事業用資産の課税価格に対応する相続税や贈与税を納税猶予する、というものです。その納税猶予割合は100%とされていますので、特定事業用資産をノータックスで相続や贈与できるというメリットがあります。

2.対象となる事業用資産「特定事業用資産」
 納税猶予になる事業用資産としては、ほとんどの資産が対象になりますが、青色申告書に添付される貸借対照表に計上されているもの、という条件があります。つまり、複式簿記で帳簿記帳を行い、青色申告特別控除65万円控除を受けている事業者の資産が対象です。

3.相続税及び贈与税の納税猶予
①先代経営者から後継者への生前贈与
 先代経営者が後継者に事業用資産を生前贈与する場合、通常であれば後継者(受贈者)に贈与税課税の問題が生じますが、本税制を活用することで贈与税を納税猶予することが出来ます。ただ、後継者が先代経営者の子や配偶者など推定相続人(相続時に相続人になると推定される人)であるならば、相続時に引き継いでも良いのですから、急いで生前贈与する必要は無いように思います。後継者が他人ならば、資産を贈与することも少ないでしょう。よって、後継者が兄弟姉妹や甥・姪の場合などに生前贈与が行われ、本税制の活用が検討されるものと思います。

②先代経営者から後継者への相続
 子や配偶者が後継者として相続で事業用資産を引き継ぐ場合、事業用資産である土地・建物や機械・器具などが高額であると、後継者への税負担が大きくなります。そこで、本税制を活用することで、相続財産のうち「特定事業用資産-事業用債務」に係る相続税額を後継者の税負担から納税猶予することができます。
 例えば、相続財産総額が10億円あり、子A(後継者)に6億円、子Bに4億円を相続する場合、相続税額はAが2億4000万円、Bが1億6000万円であるとします。Aが相続した相続財産のうち事業用資産・債務について本特例を適用した結果、猶予税額が4000万円となった場合、これを差し引いた2億円が納税額となります。ただし、Bは当初の1億6000万円のままで、本税制適用によるメリットはありません。

③事業継続要件
 本税制は個人事業者の事業継続支援を政策目的としていますので、事業・資産保有の継続が求められています。認定相続人が事業廃止した場合は猶予税額の全額納付となり、事業用資産の譲渡をした場合は、譲渡部分に対応する猶予税額の納付が発生します。

④相続税額の猶予税額の全額免除
 この猶予税額については、以下のような場合は全額免除となります。

・後継者が死亡するまで資産を保有し、事業継続した場合
・後継者が破産した場合
・後継者が相続税申告期限5年経過後に、次の後継者に贈与し、次後継者が贈与税納税猶予を適用した場合

⑤法人成りをした場合
 法人成りをした場合も納税猶予を継続することが出来ます。大綱では、相続税申告期限5年経過後に現物出資して会社設立し、その会社の株式等を保有することその他一定の要件を満たすとき、としています。法人設立にあたり、土地建物など高額な事業用資産は譲渡負担が大きいことから、法人と個人間で賃貸をするケースが多いですが、これら資産も法人に譲渡する必要が出てくる可能性があります。

4.適用期限内に承継計画の認定が必要です。
 本税制の適用期間は2019年1月1日から10年間となります。ただ、承継計画の提出が同年4月1日から5年間となっていますので、実際には、これから事業承継計画を策定し、都道府県知事の認定を受けて以降の適用になります。後継者の選定などを考えると、早いうちに検討を始められることをお勧めします。
 個人版の場合の承継計画の内容についてはまだ確認できていませんが、法人版の内容と大きな違いはないと思います。法人版では、後継者が承継するまでの経営計画、承継後の5 年間の経営計画について、簡素に記載すれば良いものとなっています。

5.税制適用時の留意点
 相続税の納税猶予を検討する際に留意すべきことが、他相続人との調整です。特定事業用資産について本税制を適用した場合、その税負担軽減の効果は後継者だけにメリットがあります。他方、従来からある小規模宅地等の特例と選択適用になりますが、小規模宅地等の特例を適用した場合、相続財産全体の評価額が下がることから、他相続人にもメリットがあります。上記3-②の例では、小規模宅地等の特例であれば子Bもメリットがありますが、本税制適用時には子Aのみにメリットがありますので、子Bにとってはむしろデメリットになります。相続人の間でトラブルにならないように、調整が必要になってきます。

 本税制は、個人事業者の事業維持・継続のための税負担を軽減する目的で創設されています。私見ですが、近年は法人設立が容易になっているため、一般業種の方は法人で事業を行う傾向が増えているようです。個人事業者のうち、相続時に税負担が大きくなる事業用資産を有しているケースとなりますと、医療業や旅館業などかと思います。ご関心がありましたら弊社担当者が窓口になりますので、まずはご相談下さい。

【個人版事業承継税制の流れ】

(社員税理士・長崎オフィス 業務部部長 内田裕二)
(『月刊 アップ長崎・島原』2019年3月号)