2015年も11月となり、年の瀬が近づいてきました。冬の気配が迫り、気温が大きく下がってくる時季です。皆様、ご体調にはお気を付けください。

大波に舳先を向ける

難航していたTPP(環太平洋経済連携協定)の交渉が、ようやく大筋合意に漕ぎ着けました。ここに辿り着くまでに、賛成派はメリットを、反対派はデメリットを、各自の立場から極端な論調で泥仕合に明け暮れてきました。加えて、各国が交渉過程を自国民にも伏せたまま複雑な綱引きをしていました。そのため諸説の見聞はあれども、内容が不透明で真実は何なのかが今一つ掴みがたい状況です。
経済学の基礎的理論である「比較優位の原則(経済社会の各構成員が最も得意とする分野に特化し分担しあうことで、全体利益が最大化されるとする原則)」からすると、貿易が活発になれば全体としてはメリットの方が大きいのだろうとは思います。ただ、日本においてデメリットを受けるのが特に農水産業と目されているため、安全保障上の問題や選挙時の組織票の話が絡んで、ことはそう単純にはいかないようです。

TPPの是非はさておき、どの産業においても経営環境の変化は避けられないものです。
製造業は半世紀前のOECD(経済協力開発機構)加盟によって国際競争の洗礼を受けました。当時の日本の製造業はまだ貧弱だったので、「貿易の自由化によって外国の安い製品が入ってきたら、日本の製造業は壊滅する」との反対はやはりあったそうです。しかし結果的には、日本の製造業は国際競争の荒波に揉まれながら技術力を培い、今では“Made in Japan”が一つのブランドとして世界中で認められるほどに成長しました。
もちろん、全ての製造業が荒波を乗り越えたわけではなく、当時の懸念通り対応できずして飲み込まれ、沈没の憂き目を見た企業も多くあったはずです。しかし、たとえ当時の日本が国際競争への道を選ばず保護貿易に固執していたとしても、日本が資本主義陣営に属する限り、遅かれ早かれ市場開放・貿易自由化への道は結局免れえなかったでしょう。また、自らの決断と準備とをもって変化に臨む場合と、変化を拒んで拒みきれずに準備なく巻き込まれる場合とでは、得失共に大きな違いが出てくることと思います。
ITの進歩に引きずられ、経営環境が驚くほどのスピードで変化しています。たとえば大型家電量販店は、インターネットモールの増加で店舗の絞り込みやアフターサービスの強化を迫られています。また、トヨタが2020年に高速道路限定で自動運転車を発売する予定だそうで、将来的には運送業界、タクシー業界などに大きな影響が生じるものとみられています。
私たち会計事務所業界でも、通帳やクレジットカード利用のデータを取り込める会計システムの登場やマイナンバーの導入など、業務に大きな影響を及ぼすであろう変化が起こってきています。また技術進歩だけでなく、人口減少や高齢化といった長期的な環境変化も生じています。

船は、波を避けようとすると横波を受け転覆する危険がありますが、波に舳先を向けると大波でも乗り越えることができるのだそうです。企業もそれによく似ているのではないでしょうか。環境の変化を避けようとして思わぬ横波に揺らぎ沈んでしまうのではなく、変化を受け入れ立ち向かうことで乗り越えていくとの信念で、私共は環境変化に対応するための業務改善を続けていく所存です。
毎年のようにノーベル賞受賞者を輩出するほどの研究開発力・技術力を有する日本ですから、TPPの大波に自ら立ち向かうことで、農水産業をはじめあらゆる業種においてピンチをチャンスに変えていくことができる、そう確信しています!!

(所長税理士・内田佳伯 『月刊 アップ長崎』2015年11月号巻頭言より)